トスカ、感想
遅くなってすみません!
トスカ、読み終わりましたので感想を書きます!
笹部博司の演劇コレクション トスカ
作:ヴィクトリアン・サルドゥー
訳:安堂信也氏、三島由紀夫氏、時田清氏、堀内敬三氏、浅果好宗氏、W-LAIRD KLEINE-AHLBRANPT 左記の方々の戯曲翻訳、オペラ翻訳を参照。
著者:
笹部博司
登場人物はフロリア・トスカ、マリオ・カヴァラドッシ、チェザレ・アンジェロッティ、スカルピア男爵、スキアルロオネ、ゼッナリイノの6人。
1800年のローマが舞台です。
フロリアはとてつもなく大きな存在感を持つ女性です。
ローマ一の歌姫で敬虔なクリスチャン。
そしてマリオの恋人。
マリオへの愛はその存在感よりも大きく、それ故に嫉妬深く情熱的。
思い込みが激しくすぐにマリオが浮気をしたと勘違いするがそんな時でもマリオを愛している。
フロリア「ねえ、あんた、これを侯爵夫人にお渡しして下さる。裸じゃ出て来れないそうよ。だからせめて、これで隠すところを隠して出て来ていただこうじゃない。(扇を叩き付ける)出てこいったら、出てこい、あばずれ!」
マリオ「どうしたんだ、気でも違ったのか。」
フロリア「そうでしょうとも、どうせ私は気違いよ。気違いみたいにあんたのことを愛しているの。こんな薄情の、嘘つきの、恩知らずを、恋しいと思っているの。あんな女の腕と私の腕の間を行ったり来たり。私の熱い思いでほてった体をあの女のところへもっていき、今度はあの女のけがれたキスを私のところへ持って帰ってくる。いや、いや、いや、そんな汚れたキスはいや。」
マリオ「ちょっと、ちょっと、俺の話も聞いてくれ。」
フロリア「悪党、悪党、悪党、ああ、この悪党が私の生き甲斐なんだ。あんたに恋をした時からわたしは私じゃなくなった。私はあなた。私は私じゃない、私はあなた。私の魂の中にはあなたを宿している。ああ、私は私じゃない、わたしはあなた。厚かましい女にあんたを奪われても、私の心はあなた、あなた、あなた。ああ、なんて未練なんだろう。憎もうとしても憎めない。私はあなたを恋し続けるんだ。なんて可哀想な私なんだろう。私ってほんとに可哀想、ああなんて可哀想な女なんだろう。」
この後浮気の疑惑が晴れてのフロリアの台詞が僕は好きです。
フロリア「いいえ、見ないといったら見ないの。わたしはもうあなたを疑わないの。どんなことがあっても疑わないの。証拠なんていらないわ、あなたが言うことはどんなことでも信じる。だからわたしの真心をわかって頂戴。そしてさっきの取り乱したわたしを忘れて。愛してるの、あなたを。気が遠くなるほどあなたを愛しているの。本当にそうだわ、見えるわ、あの人が。」
あの人とは浮気でない証拠の事です。
まだ視界に入っていないのにこの台詞を言います。
そんな風にフロリアとマリオは愛し合っているのですが、それを壊す存在がいます。
警視総監スカルピア男爵です。
マリオの元で匿われている政治犯アンジェロッティを捕まえる為、そしてフロリアを手に入れる為、極悪非道の限りを尽くす悪人です。
マリオはアンジェロッティを匿う。
フロリアはマリオの為に口を割らない。
スカルピアはフロリアに尋問をし、答えなければマリオを拷問にかける。
フロリアはマリオを助ける為に口を割ってしまう。
スカルピア「とんでもない。あなたがいて下さるから、うれしくて、それで笑みがもれてしまうのです。あなたは最高だ。ほんとに感動の極みです。舞台のあなたは最高ですが、日常でのあなたはもっと最高です。その中でも十八番は愁歎場です。愛する男のためにあなたが悶え、苦しむ迫真の演技、お見事、ご立派、ただただ拍手、拍手、拍手あるのみです。どんなに口を極めて誉めても誉め足りることはありません。しかしいつまでも感動に浸っているわけにはいきません。仕事に戻らないと。あの男は、私は弱っていないと言っていた。つまりあの男は何を言いたいかといえば、口が避けても何も言わないといっているのです。そのことがどういうことかあなたはおわかりでしょうか。」
フロリア「人非人、人殺し。いいえ、御免なさい、お願いです、男爵そんなことはなさらないで、どうかどうか、そんなことはなさらないで、このとおりあなたに跪いてお願い致します。」
フロリアが口を割り、スカルピアがその場を調べるとアンジェロッティは自害していました。
スカルピア「さあ、スキアルロオネ、引き上げよう。死んだやつは肥溜めへ、そして生きているやつは引っ張ってゆけ、共犯だからな。」
フロリア「この人も。」
スカルピア「縛り首にする。」
な、なんて悪人っ!
その後スカルピアはマリオを投獄し、フロリアを自らの部屋に連れてくる。
そこでマリオを助ける代わりに自分と肉体関係を持てと迫る。
スカルピア「俺はお前のその高ぶった軽蔑と怒りを辱しめてやりたい。お前の誇りを押さえ付け、腕の中でねじ曲げてやりたい。」
フロリア「悪魔!」
スカルピア「悪魔、それもいいだろう。その悪魔にお前は組み伏せられ、その身を犯されるのだ。狂え、悲しめ、お前の魂の怒りが俺に組み伏せられ、あがき苦しむのをみたい。お前の体のその肉が、そっくりそのまま俺の肉の奴隷になるのがみたい。憎みをたぎらせているな。俺はそのお前の憎しみが欲しいのだ。お前の燃えたぎった憎しみが、俺の欲望の餌食となる、これこそ悪魔の喜びと言うもの。」
フロリアはスカルピアと肉体関係を持つ事を承知し、スカルピアにマリオを助ける命令を出させる。
スカルピアがフロリアに迫る。
フロリアはスカルピアを刺殺する。
その後マリオを助けようとするが、スカルピアのマリオを助ける命令は嘘で部下にはマリオを殺すよう命令していた。
怒ったフロリアはスカルピアを殺した事を白状する。
フロリア「そうです。みんなお聞きなさい。わたしはあいつを殺してやった。わかる。腹を肉切りナイフで。こうと知ったら、もっと胸の奥に突っ込んで臓腑をえぐりまわしてやればよかった。さあ、行って見てきなさい。確かめてらっしゃい。」
フロリア「私があの犬畜生をどんなめにあわせたか見ておいで。死んだ後でもまだ人殺しをするあの極悪人の死体を。」
スカルピアの部下のスキアルロオネはフロリアを殺そうとする。
そこでこの作品の最後の台詞。
フロリア「お前たちの手は借りないわ。スカルピア、地獄で待ってらっしゃい。今度はこの手でお前の首を切り落としてやる。」
そうしてフロリアは高台から飛び降りるのです。
因みに正確には
フロリア、空に飛び込む
と書かれています。
フロリアだけは死んでいったのではなく、殺しに行った。
最後まで、いや、最後じゃないんですねフロリアにとっては。
とことん、激動の女です。
なんて情熱的な女性でしょう。
なんて極悪非道な男性でしょう。
フロリアとスカルピア。
プッチーニのオペラで有名なこの作品、僕も魅せられてしまいました。
マリア・カラスが当たり役としていたそうですが、ぜひ観たかったです。
フロリア・トスカ、大女優が演じるのが似合う役ですね。
スカルピアも本当は滝沢修さんや仲代達矢さんのような人が演じるのが似合うんでしょう。
が、しかし!
スカルピアやりたい!!!
いつかこの役をやりたいなあ。
最終的には殺意ではあるけれどフロリアの心をマリオから勝ち取った男。
おこがましくも注文をつけるなら、ゼッナリイノをもっと出して欲しいです。
マリオの下で働いている若者で、この物語を登場人物の中で唯1人、輪の外から見ている者。
訳が解らなくオタオタしているのが、読者、観客と同じ立場で面白いです。
道化のような。
観客とステージ上の架け橋。
アラン・エイクボーン作「あなたに会えてよかった」のハロルドを観た時と同じ感覚です。
それと、最後。
終わり方が、終わった気がしませんでした。
勿論それを狙っているのでしょうけれど、終わりがボルテージのピークというのを。
僕はもうワンクッション入れたくなりました。
フロリアを中心に他の登場人物の死体が転がっていて、それをスキアルロオネが呆然自失と見ているシーンとか。
ただ、最後に残すのはゼッナリイノにしたいのですよね。
だから、スキアルロオネが呆然としているとゼッナリイノが出てきてその惨状を目の当たりにし、スキアルロオネの背後に立ち、激しく憎悪が沸いてスキアルロオネに何かしようと息を吸ったところで暗転。
そんなシーンとかどうでしょうか?
・・・邪魔臭いかな?
うーむ、難しい。
スキアルロオネ、彼も面白い役です。
読んでいる最中はスカルピアに従順で、まるでスカルピアの人形のように動くので、北九州監禁殺人事件の容疑者のように没個性的なのかと思ったら、最後にスカルピアを殺したフロリアを激しく憎みました。
スカルピア信者だったのですね。
不謹慎ながらも北九州監禁殺人事件を思い出したから、この役は女性がやっても面白いのかもと考えました。
スキアルロオネもスカルピアの被害者でマインドコントロールされており、没個性的になったと。
男性でも良いのですが、スカルピアの性格上その場合は女性かな、と。
でもそうすると最後にフロリアを殺そうとするのが難しいんですよね。
・・・スカルピアに服従する事で自分を守ってきたのにいきなりその支えを奪われた事への憎悪?
うーん。
とにかくこんな読み終わった後もまだ読者の中に生き続ける作品。
皆さんも機会があったらぜひ!
超お勧めです!!!